
【令和8年熊本地震】罹災証明書をめぐる基礎知識

第1章 令和8年熊本地震 — 公式に確認されている情報
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生しました。気象庁の公式呼称は「令和8年熊本地震」で、マグニチュードはMj7.1、最大震度は7を記録しています。震度7を観測したのは熊本県の宇城市と八代郡氷川町です(気象庁「令和8年熊本地震ポータルサイト」)。
地震発生を受け、政府は段階的に法的枠組みを動かしています。まず熊本県が9市10町1村に対して災害救助法を適用し(熊本県公式)、続いて8月7日に閣議決定で激甚災害への指定が行われました(農林水産省・内閣府)。加えて特定非常災害の指定も公布・施行されています(総務省)。
気象庁は発生直後の8月4日付の第7報等で注意喚起を行っていましたが、本稿執筆時点(2026年8月11日)においても、余震活動は継続しています。申請・復旧・売却・賃貸いずれの場面でも、「今後も強い揺れを伴う余震が発生する可能性がある」という前提で慎重に行動する必要があります(気象庁ポータルサイト)。
第2章 罹災証明書とは何か
罹災証明書(り災証明書)は、災害対策基本法第90条の2に基づき、市町村長が住家(人が居住している家屋)の被害程度を認定し、その結果を証明する公的書類です(内閣府・総務省ガイドブック)。
ここで重要なのは、罹災証明書が「申請書を出すだけで発行される書類ではない」という点です。交付を受けるには、市町村職員による住家の現地調査(外観調査)が必須となります。例えば益城町の運用例では、申請後に職員がビブスを着用して申請者の自宅を訪問し、外観の一次調査を行う流れが公表されています(益城町公式)。
つまり、罹災証明書とは「被災した事実」を抽象的に示すものではなく、「専門調査に基づいて被害の程度を公的に判定・証明する」ものです。後述(第5章)する被災届出証明書とは性質がまったく異なるため、目的によって使い分ける必要があります。
第3章 被害認定の6区分 — 区分で「使える支援」が変わる
罹災証明書に記載される被害区分は、内閣府が定める「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月版)に基づき、以下の6区分に判定されます(内閣府資料)。
全壊: 損壊が甚だしく、補修しても原形をとどめないか、補修費用が建築費を超過するもの
大規模半壊: 損壊が著しく、補修に多額の費用を要するが、補修すれば元の状態に近づくもの
中規模半壊: 大規模半壊に至らないが、住家の損壊が相当程度であるもの
半壊: 損壊が相当あるが、補修により再使用できるもの
準半壊: 損壊が少ないが、補修を要する程度であるもの
準半壊に至らない(一部損壊): 損壊は軽微で、補修を要しない程度であるもの
このうち、「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」の4区分は、被災者生活再建支援金の受給対象となる重要区分です(総務省ガイドブック)。「準半壊」「一部損壊」は支援金の対象外となりますが、市町村税の減免や災害ごみの処分手数料減免などの対象に含まれるかは自治体の運用によって異なります。なお、判定区分は行政の調査によって決まるため、申請者自身が希望する区分を選ぶことはできません。
第4章 罹災証明書で受けられる公的支援 — ドアが開く先
総務省 熊本行政評価事務所が公表している「被災者生活再建支援 窓口案内(熊本県版ガイドブック)」によると、罹災証明書は主に次の行政手続きや支援の入口となります。
税金の減免・軽減: 所得税の雑損控除または災害減免法による軽減免除、市町村税の減免。
各種支援金・融資: 被災者生活再建支援金、災害復興住宅融資(一部損壊等は対象外の場合あり)。
公共サービスの減免・優遇: 災害ごみの処分手数料の減免、公営住宅の優先提供。
行政手続き: 義援金の受け取り、仮設住宅(賃貸型応急住宅)への入居申請。
罹災証明書は「持っていれば自動的にお金が振り込まれる」ものではなく、各種制度申請の際に提示を求められる「資格証明のパスポート」としての役割を果たします。
第5章 「罹災証明書」と「被災届出証明書」の違いを混同しない
実務現場や被災者の間で混乱しやすいのが、この2つの書類の使い分けです。
罹災証明書: 住家の被害程度を、市町村の現地調査に基づき認定・証明するもの(税減免・支援金・融資等で使用)。
被災届出証明書: 住家以外(倉庫、カーポート、店舗、事業所、家財、車両など)の被害について、現地調査を行わず、被災の事実のみを証明するもの(保険請求や家財の買い替え等で使用)。
保険会社への請求や災害ごみの処分において、どちらの書類が必要になるかはケースバイケースです。各自治体の窓口(宇城市や益城町など)でも案内が分かれているため、事前に確認することをおすすめします。
第6章 申請の流れ — 調査と「被害なし」の可能性
申請から発行までの標準的な流れ(益城町等の例)は以下の通りです。
申請受付: 窓口またはマイナポータル等のオンライン申請で行う(本人確認書類や代理人の場合は委任状が必要)。
調査・判定: 市町村職員による住家の外観調査(一次調査)が行われる(原則として事前の日程調整なしで行われるケースが多い)。
証明書発行: 判定結果が郵送等で通知される。
ここで注意すべき重要事項として、公式ページにも明記されている通り、「調査の結果、被害なしと判定されることもある」という点が挙げられます。申請すれば必ず何らかの被害区分がつくわけではないことにご留意ください。また、一次調査の結果に不服がある場合は、二次調査(再調査)を請求する救済ルートも用意されています。
第7章 オンライン申請と窓口申請の注意点
デジタル庁が案内するマイナポータルを活用したオンライン申請は、窓口に並ばずに済むメリットがあります(対象市町村は要確認)。
一方で、オンライン申請を行う際の大きな注意点として、「自治体からの確認メールが迷惑メールフォルダに振り分けられてしまう事例」が複数報告されています。申請後は必ず迷惑メールフォルダの確認を行ってください。 窓口申請を選択する場合も、市町村ごとに受付時間や開設場所(本庁・支所など)が異なるため、事前に各自治体の公式サイト等で最新の開設状況を確認してから足を運んでください。
第8章 不動産実務との接点 — 証拠保全と慎重な初動の重要性
不動産オーナー、売買・賃貸の検討者、そして実務に携わる私たちにとって、被災後の動き方は資産価値と法的権利を守る上で極めて重要です。
修繕・解体を急がない(証拠保全の徹底): 被災した建物の売却や解体を急ぐあまり、罹災判定の調査前に片付けや大規模修繕を行ってしまうと、公費解体の対象外になったり、正確な被害認定を受けられなくなったりする致命的なリスクが生じます。着手前の被害箇所の写真撮影・保存を必ず最初に行ってください。
賃貸住宅の活用(みなし仮設): 熊本県や熊本市では、民間賃貸住宅を借り上げて被災者に無償提供する「賃貸型応急住宅(みなし仮設)」の運用が始まっています。物件を提供する家主側も、罹災証明書の仕組みを理解しておく必要があります。
ローンの相談と判定待ち: 住宅ローンの返済猶予や災害復興住宅融資の相談では罹災証明書の提示が求められますが、判定が出る前に金融機関へ相談する場合は「取得見込」を前提とした事前協議の形をとるのが現実的です。
不動産会社のスタンス: 現場ではお客様の不安や焦りから「これなら全壊扱いになるか?」と尋ねられる場面が多くありますが、不動産会社が独断で判定を予測・断言することは避けるべきです。「まずは自治体の正式な罹災判定と証拠写真の保存を最優先にする」というプロとしての慎重な姿勢が、結果としてお客様の不利益を防ぎます。
第9章 まとめ — 一次情報と確実なステップで動く
本稿の要点をまとめます。
地震の公式呼称は「令和8年熊本地震」(Mj7.1・最大震度7)。激甚災害・特定非常災害の指定等の法措置が進行中。
罹災証明書(住家対象・調査あり)と被災届出証明書(住家以外・調査なし)は別物。
被害認定は内閣府の基準に基づく6区分(全壊〜一部損壊)。税減免や支援金の入口となる。
調査前の勝手な解体・修繕は厳禁。必ず修理・片付けの前に被害箇所の写真を撮影・保存する。
余震活動は継続中であり、自治体の公式情報および各省庁の一次情報を確認しながら慎重に行動する。
本稿は法的助言を行うものではありません。個別の事案や詳細な手続きについては、お住まいの市町村の担当窓口、または弁護士・税理士・行政書士等の専門家にご相談ください。(この情報は令和8年8月11日現在のものです。)