
【保存版】山林を買う前に読むべき現実|放置された山・林業衰退・ウッドショックが暴いた日本の森林問題【前編】

はじめに|「山を買う」と聞いて、何を思い浮かべますか?
「山を買ってみたい」
そう聞くと、どこか夢のある話に聞こえるかもしれません。
人里から少し離れた山を買って、週末にはキャンプをする。小さな小屋を建てる。薪を作る。子どもと自然の中で遊ぶ。あるいは、都会から離れて、自分だけの場所を持つ。実際、近年は「山を買う」という選択肢に興味を持つ人も少なくありません。
しかし、山林を扱う不動産会社として、あえて最初にお伝えしておきたいことがあります。
山は、買って終わりの土地ではありません。ここを綺麗事だけで語ってはいけないと思っています。
山には木があります。木があれば成長します。草も生えます。道もあります。雨も降ります。斜面もあります。そして、所有者が何もしなければ、森林としての管理が十分に行われない状態になることもあります。
都会に住んでいる人から見る「山」と、山の近くで暮らしている人が見る「山」は、少し違うのです。私たちが見ているのは「自然豊かな場所」だけではありません。そこには――
- 林業という産業の衰退
- 森林所有者の高齢化と担い手不足
- 相続されたまま利用されていない山
- 境界が分からなくなった森林
- 管理を引き受ける人・組織の不足
という、日本の山が抱える現実があります。
だからこそ私は、山林を「夢」だけで販売したくありません。山の現実を知った上で、それでも山を持ちたい。そう思っていただける人に、山を引き継いでもらいたい。このブログは前編・後編の2回に分け、前編では「日本の山が今、どんな状態にあるのか」、後編では「山を持つときのお金と制度、そして持つ・売る・活かすの選び方」を、数字と一次資料に基づいてお伝えします。
第1章|山は「レジャー地だけ」ではない――戦後造林が育てた「伐る時期を迎えた森」
山林を購入すると聞くと、「キャンプ場にできる?」「小屋を建てられる?」「アウトドアに使える?」と考える方が多いと思います。もちろん、それも山の利用方法の一つです。
しかし、日本の山林の多くは、もともと木を育て、森林資源を生み出す場所として存在してきました。植林し、木を育て、下草を管理し、必要に応じて間伐を行い、成長した木を伐採する。そして伐採した後には再び植林する。この循環が林業の基本です。
ここで押さえておきたいのが、日本の森林が「なぜ今のような姿になったのか」という歴史です。
現在の人工林の多くは、戦後の拡大造林の時代に植えられたものです。高度経済成長期、住宅ブームと公共事業の拡大で木材需要が急増し、国をあげてスギ・ヒノキの植林が進められました。土地を開墾し、ナラやクヌギなどの雑木林を切り開き、将来の建築材となる針葉樹を植えたのです。
その結果、日本の森林面積は国土の約3分の2にあたる約2,500万ha、このうち人工林は約1,000万haに達します(厚生労働省「林業労働力の確保を巡る状況」)。そして人工林を中心に、森林の蓄積(たまった木材の量)は毎年約1億m³ずつ増え続け、現在は50億m³を超えています。
つまり、日本の山には「伐る時期を迎えた木」が大量にあるのです。人工林の齢級(林齢を5年単位でくくった区分)別の面積を見ると、スギでは11〜14齢級(林齢51〜70年生)が突出して厚く、平均林齢は約53年。標準的な伐期(45〜50年)をすでに超えた、いわゆる「過熟林」の状態が広がっています。全人工林に占める51年生以上の割合は約6割に達します(林野庁「スギ・ヒノキ林に関するデータ」)。
ところが、令和6年(2024年)の木材自給率は42.5%。建築用材等に限っても52.9%で、需要の半分近くを輸入材に頼っているのが現状です(林野庁「令和6年木材需給表」)。
「伐るべき木はあるのに、伐られていない」。ここに、日本の林業の根本的な問題が集約されています。令和7年度(2025年度)の森林・林業白書(令和8年6月2日公表)も、特集「森林資源の循環利用の確立に向けて~木材利用と再造林をつなぐ~」で、再造林が進まない根本原因として造林の初期費用が立木販売の収入を上回っている実態を指摘し、「伐って、使って、植えて、育てる」循環をどう回すかを最大の課題としています(林野庁)。
つまり、現在の日本の課題は「森林資源の不足」ではなく、森林を適切に管理し、木材として利用し、次の森林につなげていく仕組みをどう維持するか。この認識を持たずに山を買うと、「広いのに何もできない」という意外な現実に後から気づくことになります。
第2章|「山を放置する」とは、具体的にどういうことなのか
ここは誤解してほしくないところです。「山を持ったら、毎週自分で草刈りをしなければならない」という話ではありません。
山林の管理には専門的な作業があります。例えば――
- 下刈り(植えた木の周りの草を刈ること)
- 枝打ち
- 間伐(樹木の密度を調整するために一部の木を切ること)
- 伐採
- 再造林(伐った後に植えること)
- 森林作業道の整備
- 境界確認
- 森林の状況調査
もちろん、山林の状況によって必要な作業は違います。そして重要なのが、森林所有者自身がすべての作業を行う必要はないということです。
森林組合などの林業事業体に、森林整備や施業を依頼するという選択肢があります。林野庁の集計では、林業経営体が一定期間の作業・管理を一括して任されている山林は約98万haあり、その約9割を森林組合または民間事業体が受託しています(林野庁・平成30年度森林・林業白書)。また、森林経営計画は、森林所有者自身が立てる方法と、森林の経営を委託された者が立てる方法のどちらもあります(林野庁「森林経営計画」)。
つまり―― 「山を買う=自分でチェーンソーを持って山に入る」ではありません。 専門家に相談しながら管理していくことは十分に可能です。
では、なぜ「放置された山」が増えているのでしょうか。ここが前編で最もお伝えしたいポイントです。
一つ目の要因は、所有者の小規模化と高齢化です。林野庁の分析では、森林所有者のうち保有山林面積が10ha未満の者が全体の87%を占めます(林野庁・森林・林業白書(平成28年度))。小さな山ほど、間伐や主伐・再造林の費用を回収しにくく、「手入れしてもトントン、下手をすると赤字」という現実があります。さらに所有者本人が高齢化・遠方居住になれば、なおさら山に手が回りません。
二つ目の要因は、境界と所有者の所在が不明確化していることです。林野庁が把握しているだけで、所有者が判明しない「所有者不明林」と不在村所有者の森林を合わせた面積は20万haを超え、全森林の約1%に相当します。登記簿と現地の名義が一致しない、相続が繰り返されて共有者が数十人に及ぶ――そんな山では、誰が管理決定をするのかも曖昧になります。
つまり、「山を放置する」のは、ほとんどが所有者の「やる気がない」からではなく、小規模・高齢化・境界不明という構造が生み出した結果なのです。この構造を知らずに山を買うと、「思ったより管理のハードルが高い」と感じることになります。逆に、この構造を知った上で山を買えば、「周りの山も含めてどう動いているか」が見えてきます。
第3章|山を放置すると、何が失われるのか――森林の多面的機能
| 機能 | 評価額(年) |
|---|---|
| 表面侵食防止(土砂流出の防止) | 約28.3兆円 |
| 水質浄化 | 約14.6兆円 |
| 水資源貯留 | 約8.7兆円 |
| 洪水緩和 | 約6.5兆円 |
| CO₂吸収(地球温暖化防止) | 約1.2兆円 |
(林野庁「森林の有する多面的機能」/Forest Eight「森林の多面的機能評価」)
私たちの飲み水の源、豪雨時の洪水緩和、斜面の崩壊防止――それらは決して無料ではなく、森林が健全に管理されているからこそ発揮される機能です。
一方で、「山は自然だから、何もしない方が自然なのでは?」という考え方もあります。確かに、自然林(天然林)と人が植林した人工林では、考え方が違います。すべての森林に同じ管理が必要というわけではありません。
ただし、注意が必要なのは人工林です。間伐されず放置された人工林は、樹冠が密になり林床まで光が届かなくなります。すると下草が失われ、雨が地表を直接叩き、土壌が流出しやすくなります。斜面地では、これが崩壊リスクの上昇につながります。さらに、細く弱い木ばかりが残るため、いざ風雪害が起きると倒木が連鎖する危険もあります。
つまり、「手入れしないこと」が人工林にとって「自然に還ること」を意味するわけではないのです。だからこそ重要なのは、その山がどのような森林なのかを知ることです。
- 人工林なのか、天然林なのか
- 樹種は何なのか(スギ・ヒノキ・広葉樹など)
- 樹齢はどのくらいなのか
- 間伐が行われてきたか、林床の状態はどうか
- 林道や作業道はあるのか、車で入れるのか
- 境界は明確なのか
- 隣接する森林は誰が所有しているのか
- 保安林などの法令上の指定はないか
- 今後どのような管理が必要なのか
山林を購入するときは、こうした確認が住宅や宅地の取引以上に重要になります。そして、放置のリスクを「次の世代へのツケ」としてとらえる視点も必要です。所有者が高齢化して管理が止まり、境界が分からなくなった森林は、次の相続で「名義人が分からない山」を生み出します。前編の最後に、もう一度この点へ戻ってきます。
第4章|ウッドショックが教えてくれた、日本の林業の「弱さ」と「資源」
2021年頃、「ウッドショック」という言葉が大きなニュースになりました。米国の住宅需要の急伸と輸送・物流の混乱をきっかけに、海外からの木材供給が不安定になり、木材価格が急騰。住宅建築にも影響が出ました。
このとき、「日本には山がたくさんあるのだから、国産材を使えばいいのでは?」という疑問を持った方も多いと思います。しかし、現実はそんなに単純ではありませんでした。
林野庁のデータでは、ウッドショックのあった令和3年(2021年)、スギの平均価格は1m³あたり1万5,900円まで上昇しました。それでも、住宅に使う木材の需給はすぐには回りません。なぜなら――
- 木を伐る人が必要です
- 林道・作業道(路網)が必要です
- 伐採した木を運ぶ・製材する・乾燥させる・加工する工場と技術が必要です
- 伐採した後には再造林も考えなければなりません
つまり、「木が山にある」ことと、「必要な木材を必要な時期に必要な量だけ供給できる」ことは、まったくの別問題なのです。ウッドショックを受けて、林野庁も国産材への転換と安定供給に向け、間伐や路網整備、乾燥施設など供給力を高める対策を進めました(経済産業省「ウッドショックの影響」)。
ウッドショックは、単なる「木材価格が上がった事件」ではありません。日本には資源があるのに、それを安定して利用する産業基盤には課題がある――そのことを改めて考えさせた出来事です。そしてこの「資源と産業基盤のギャップ」は、山を買う人がその山の木を「いつか活用したい」と考えるときにも、必ず立ちはだかる壁になります。「うちの山の木は売れるか?」の答えは、「山の中に木があるか」ではなく「この地域に伐る人・運ぶ道・加工する工場があるか」に左右されるからです。
第5章|担い手は本当に消えたのか――高齢化と若返りの二重構造
ここまでお伝えした「放置」の話には、もう一つの背景があります。林業の担い手問題です。
林業の就業者は1980年に約14.6万人でしたが、2020年には約4.4万人へと約7割減少しました。65歳以上の割合(高齢化率)は25%で、全産業平均の15%を大きく上回ります(林野庁)。
ここまで読むと「林業は消えゆく産業」という印象を受けるかもしれません。しかし、数字をもう少し丁寧に見ると、異なる側面が見えてきます。
実は、林業の若返りは着実に進んでいます。35歳未満の割合(若年者率)は、平成2年(1990年)の6%から、平成27年(2015年)には17%まで上昇し、平均年齢も下がり続けています。これは「緑の雇用」事業などの新規就業・研修制度の効果によるもので、近年の林業にはチェーンソーや重機の技術を持った若い担い手が確実に増えています。
つまり、現在の林業は「数では減り続けているが、質と年齢構成は改善しつつある」という二重構造にあります。これは山を買おうと考えている人にとって、とても重要な情報です。林業の担い手が地域にいるかどうか――それは「管理を委託できるか」「将来的に木を活用できるか」を左右する、実務上の大前提だからです。
山を買う前に、その山がある市町村の森林組合や林業事業体の状況を調べることを強くおすすめします。「山は買えても、管理してくれる人が周りにいない」というのが、都会から山を買う人の最大の失敗パターンだからです。
第6章|前編のまとめ|「木があるのに使われない」――その構造の先に
ここまで、日本の山林の現実を4つの数字で見てきました。
- 資源はある――人工林約1,000万ha、蓄積は増え続け、伐期を超えた木が6割
- 使われていない――木材自給率42.5%、需要の半分近くを輸入に依存
- 持ち手が細り、境界が曖昧になっている――10ha未満の所有者が87%、所有者不明森林は20万ha超
- 担い手は減ったが、若返りは始まっている――高齢化率25%の一方、若年者率は17%へ
この4つの事実をあわせると、「日本には山があり、木がある。しかし、それを支える制度と経済の仕組みには課題がある」という、あの結論に帰着します。そして、この構造の隙間を埋める存在のひとつが、「これから山を持つ人」です。
ただし、山を持つことには、前編で触れた現実の理解に加えて、お金と制度の知識が必須になります。伐採には届出が必要です。保安林には制限があります。1ヘクタールを超える開発には都道府県知事の許可が必要です。相続登記は2024年から義務化されています。そして、手放す・任せる道にも、森林経営管理制度や森林環境譲与税といった制度が用意されています。
後編では、「山を持つときのお金と制度」「手放す・任せる選択肢」「不動産会社の役割」を、熊本の事例とあわせて解説します。
(→ 後編へ続く)